弁護士由井照彦のブログ

法律の視点からの社会・事件やリーガルリサーチについて

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一線超えたら何がまずいか?−不倫と貞操義務

今井氏のネタで「2人で同室お泊りすれば一線を超えたも同然」「あの手のつなぎ方は一線を超えている」とかいうある意味童貞臭のする議論は実は法律的にも興味深くはあります。
不倫でまずもって問題となるのは、不倫相手と男女の体の関係があったか?ということになります。いわゆる婚姻している者の貞操義務の問題となるのですが、民法の規定では実は貞操義務を直接定めているわけではなく、

民法770条1項「夫婦の一方は、次に掲げる場合に限り、離婚の訴えを提起することができる。

一  配偶者に不貞な行為があったとき。(2号以下略)」

 ということになっています。

少しわかりにくいのですが、配偶者に不貞行為があれば訴訟を提起できるだけでなく、不貞行為があれば裁判上離婚が認められる、ことを意味する条文です。
つまり、不貞行為をしたら、相手方から強制的に離婚されるわけで、逆に言えば夫婦関係=婚姻関係にある者は「不貞行為を行わない義務」=「貞操義務」をお互い負っている、ということになります。
この規定は、不貞行為を行えば必ず相手からの離婚が認められる、という重大な効果を導くため、各条文文言は厳密に解釈されています。そのため、「不貞行為」とは「男女の体の関係そのもの」と解釈されています。
そういう意味で冒頭に挙げた議論の法的意味は2つに分かれます。
まず第1に「2人の体の関係を推測させる事実」というのがあります。そういう現場を写真や映像に撮るというのは、なかなか無いため、裁判では周辺の事実(間接事実と言います)から推測する(推認するといいます)しかないのが通常です。
上の議論では、「2人でホテルで同じ部屋に泊まれば一線超えたんだ」という意見は、要するに「2人で同宿すれば体の関係があったと強く推測される」と言っているのであり、つまり民法770条1項1号の事実があったのだ!という話です。
第2に、上記議論で言う「あの手のつなぎ方は一線を超えている!」というのをどう考えるか、という問題があります。
「あんな手のつなぎ方をしているということは、不貞行為の存在が推測される!」というのはさすがに無茶な論理です。
また、不貞行為の一歩手前の行為(口とか手で?)をしていたが、ホテルに行った証拠は何もなく、不貞行為のの存在までは推測できない、という場合もあります。
更に、少し前に話題になった国会議員のように、愛人と結婚式を上げたが、不貞行為の証拠はない、という場合もあります。
しかし、そんなような事実は配偶者にとって耐え難いことも多いわけで、不貞行為が無いからと言って離婚が認められないのは不条理とも言えます。そういう場合を拾うのが上にあげた民法770条1項の第5号で、

民法770条1項5号「五  その他婚姻を継続し難い重大な事由があるとき。」

 と規定されています。

そういう関係が無くとも、婚姻を継続し難い重大な事情があった、とされれば離婚は認められるわけです。
条文を比較すれば明らかな通り、1号が定める「不貞な行為」に比べ5号の「重大な事情」というのは、何がそれにあたるか曖昧で切れ味が悪いのは否めません。
他方、曖昧で切れ味が悪いからこそ色んな事情を考慮できることになります。
実際の離婚調停・離婚訴訟の場では、不貞行為の存在の証拠、不貞行為の存在を立証できないとして、他に婚姻関係が継続し難い重大な事情があるか、等を離婚条件と共に争っていくということになります。
ちなみに弁護士として働いていると「不倫はしない方がいい」というのが率直な感想です。
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