弁護士由井照彦のブログ

法律の視点からの社会・事件やリーガルリサーチについて

にほんブログ村 政治ブログ 法律・法学・司法へ

丸投げにも三分の理?-リスク分散の基礎の基礎

 

 新型コロナ関係では変な企業や変な契約がやたら出てくるなあ、という感想が否めませんが、それはともかく、記事の財務省幹部のような怒りを覚えた方は多いと思います。

 しかし、「丸投げ」すべてが悪いのか?、「丸投げ」が役に立つことはないのか?をよく考えてみることは、ビジネスでよく言われる「リスク分散」の基礎の基礎を学ぶのにとても有益です。

 「丸投げ」は、「『契約』が『2』当事者間」で結ばれる」という法的性質を使ったリスク分散の超基本的な手法だからです。 

 わかりやすく說明するため、Aさんが自宅を建築することを例にします。なお、建設業法では建築工事の一括下請けは禁止されていますが、話を単純にするためにこの点を度外視します。また、これも話を単純にするために、工事代金は工事開始時に全額支払うと仮定します。

 X工務店は、Aさんの自宅建築を800万円で請け負うことが可能です。これは相場よりかなり安い価格です。

 Aさんが最も安く自宅建築するためには、X工務店と直接建築工事契約を結べばよいことになります。単純な話です。

 しかし、(代金支払後)工事途中でX工務店が夜逃げしてしまうと、話が複雑になります。

 逃げたX工務店の社長や従業員を探して見つけたところで、材料費も持っていないでしょうから、工事を続けさせることは不可能です。

 当然、Aさんは別の工務店に残りの工事を発注しなければならず、もちろん工事代金を支払うしかありません。別の工務店はX工務店より代金額が高いかもしれません。

 支払えてもものすごく大きな追加出費ですし、Aさんにそれだけのお金が無ければ、800万円を溝に捨てて工事と自宅を諦めるしかありません。

 こういった事態を避ける=リスクを分散するために、「丸投げ」が用いられることがあります。

 Aさんは、まず、資金力(信用(力))のある大手建設会社Y社に工事を900万円で発注します。AさんとY社が契約している、ということです。

 当然、Aさんに対して、自宅工事を完成させる義務を負うのはY社です。

 Y社はAさんから受注した工事をX工務店に担当させることとし、800万円で下請けに出します。Y社とX工務店が契約しているということです。

 まさしく、丸投げです。Y社は何も工事をしないのに100万円をせしめることができます。

 これだけを見るとAさんがY社に工事を発注したのは、「無駄遣い」ということになります。

 しかし、先程と同じように、工事途中でX工務店が倒産すると話が変わります。

 X工務店が倒産しても、Aさんとの関係で工事を完成させる義務があるのはY社です。Aさんが建築工事契約を結んだのはY社であって、X工務店では無いからです。

ですので、Y社は、Aさんとの契約を履行して工事を完成させるため、別の工務店(Z社)に工事の発注をやり直して、Aさんの自宅を建築しなければなりません。

 やり直しの発注はY社とZ社の契約であって、AさんとZ社の契約ではありませんから、その追加工事代金を支払うのは、当然、Y社です。

 そうすると、Aさんは当初の工事担当X工務店が倒産しようがしまいが、追加費用を支払うこと無く、言い換えれば当初Y社に支払った900万円だけで、確実に自宅を手に入れられます。

 逆に、Y社はX工務店が工事を完成すれば、何もせずに100万円得ることができますが、X工務店が倒産すると追加費用を負担するリスクを追うことになります。追加費用は100万円を超えることが多いでしょうから、その場合Y社はこの取引で損失を出すことになります。

 つまり、丸投げというのは

「『A−Y』」間の契約による権利義務は、『Y−X』→『Y−Z』間の契約による権利義務の影響を受けない」

という「契約」という法技術の性質(「債権の相対効原則」と言います)を利用して、

一方で

Aは追加費用負担なしで確実に自宅建築を手に入れることができ、

他方で

YはXの倒産が無ければ、何もせず100万円の利益を得ることができるが、Xが倒産した場合には追加工事代金を支払わなければならなくなる

という一種の取引です。

 経済的に見れば、

Aは100万円の「完成保証料」をYに支払っている

と見ることもでき、

Yは工事完成の保証人という立場

ということになります。Yは与信を行っていると言い換えることもできます。

 つまり、

「Xの倒産」というAさんが負っていたリスクを、AさんがY社に100万円支払うことによって、Y社に移転した

ということになります。

 丸投げは使いようによっては、与信以外のリスク分散機能を持たせることが可能であり、目的によって、下請けを更に下請けさせたり、上記Y社の立場の会社を複数にしたりと、バリエーションも多様です。

 さて、そこで今回の記事の取引を考えてみると、記事によれば

  • 上記Aの立場は、国
  • Yの立場は、電通その他の会社が設立した法人
  • Xの対場は、電通

ということになります。

A=国は6億円の「保証料」をYに支払っており、

Yが選んだ業務担当者が、X=電通

ということです。

  •  A=国は。費用を無駄遣いしてはいけない一方、給付金が届かないという事態は絶対に避けなければなりません。
  • X=電通は、上記の建築の例とは異なり、大企業で資金力は巨大であり、業務能力も非常に高いでしょう。ただ、おそらくはさほどリーズナブルな業者ではありません。

そうすると、

Yを挟むメリットは何であるのか? 

言い換えれば、

国にとって6億円の保証料は「何を保証してもらっているのか?」

Yには「何を保証できる能力があるのか?」

といったあたりが、問題の焦点のように見えます。

そのような観点でこの手のニュースを見ると、より味わいが深まります。

www.tokyo-np.co.jp

にほんブログ村 士業ブログ 弁護士へ