父が決まればいい?−300日問題の解決のヒント−その1
前々回、我が国では子を育てる責任を負うのは親であるという前提の元、我が国の民法は子の福祉及び国家の視点からの要請から、①父を「自動的に決める」②子を育てる責任を容易には免れさせないことを定めており、具体的には
①父子関係と婚姻を結びつけて婚姻中又は婚姻解消後300日以内に産まれた子の父は母の戸籍上の配偶者とされ
②嫡出否認の主張は非常に限定された場合にのみ認める
という嫡出推定制度、嫡出否認制度を設けていることを説明しました。
では、その例外は全く認められないのか?ということが問題になります。
まず、嫡出否認制度について例外が許される場合とその理由を考えてみると
ⅰ)父子関係の当事者たる「父」のみ主張できる⇒子も当事者なので子が主張しても良い?
ⅱ)手段は訴訟⇒訴訟の形態は色々ある。訴訟でありさえすればよい?
ⅲ)一度父子関係を認めたら否認主張でいない⇒1度も認めて無ければ主張できる?
ⅳ)出生後1年経てば父子関係が安定しているので主張できない⇒1年経っても安定していなければ主張できる?
ということになりそうです。
また、嫡出推定・嫡出否認制度の目的からは
ⅴ)子を育てる責任を負う者を自動的・安定的に決めるための制度⇒別の者が子を育てる責任を負う場合であれば主張してもよい?
ということになりそうです。
他方、民法772条が非常に限定的な場合にのみ嫡出否認の主張を許しているということは、裏を返せば同条の場合にのみ遺伝子のつながりを直接判断する(現代的にはDNA鑑定)ことを許している(これは一種のプライバシーの保護といえます)とも考えられますので、
ⅵ)DNA鑑定をするまでもなく血縁関係が無い場合
にのみ例外を認めるべき、との考え方にも十分な理由があります。
もちろん、上記ⅰ〜ⅵが全て揃わなくても(一部が揃えば)例外が認められる余地はあるのですが、上記ⅰ〜ⅵがほぼ全て当てはまる事件がありました。
その事件は昭和44年に最高裁で判決が出されますが、事案は
- 子の母と戸籍上の配偶者は子の出産の2年半以上前から別居し、全く交流が絶たれていたが離婚届の提出が遅れ
- そのため、戸籍上の婚姻終了後300日以内に別の男性(遺伝子上の父)との間の子が産まれた
- 嫡出推定制度により母の戸籍上の配偶者が『父』とされていた子が10歳を超えてから
- 遺伝子上の父に認知を求めて認知訴訟を提起した、
というものでした。
認知訴訟ですので、遺伝子上の父を「子を育てる責任を負う者=父」と認めよ、という訴訟ということなので、訴えが認容されれば上記ⅴ(別の者を子育て責任者とする)、ⅰ(子が主張)、ⅱ(手段は訴訟)にそれぞれあたります。
また、戸籍上の夫婦間は2年半以上交流を絶っていますのでⅲ(1度も父子と認めず)、ⅳ(安定した父子関係無し)ⅵ(明らかに血縁関係無し)にそれぞれあたります。
この事件で最高裁は、上記事情がある場合には「実質的には民法772条の嫡出推定を受けない」として嫡出否認の訴えによらなくても、父子関係を否定できる、と判断しました。つまり民法777条が定める嫡出否認の訴えの制限を受けずに例外的に父子関係の存在を否定することを認めました。
しかし、この最高裁の判断には更に味わい深く、実は300日問題の解決のヒントにつながるポイントがあります。それは、
「『認知請求訴訟』つまり、遺伝子上の父を法的な父と認めよ」という訴訟において上記のような嫡出否認制度(民法777条)の例外を認めた
という点です。
これが何故味わい深く、300日問題の解決のヒントのなるのかは次回説明します。