弁護士由井照彦のブログ

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落ち着きどころは難しい?−債務免除と安売りと税金

スルガ銀行の経営陣や個々の銀行員の責任はこれから厳しく問われていくと思われますが、それはそれとして、同行から融資を受けてシェアハウスを建てた人(スルガ銀行からの借主)について、今後どのような落ち着きどころを探るかは非常に難しいものと思われます。今回は、その難しさの一面を税法を通して考えることにします。

まず、スルガ銀行融資のシェアハウスの問題点の1つは、記事にあるとおり、銀行によるシェアハウスの評価額が、真の評価額の1.7倍、水増しされているということです。

この評価額はDCF法、つまり、シェアハウスとして入居者を募集し、将来上がる(はずの)利益を基に算出された額ですので、大まかに言えば、融資時の計画の約6割弱しか賃料収入が入ってこない可能性が高いことを示しています。想定の6割弱の収入で、スルガ銀行からの融資を返せるはずはありません。

では、借主が自腹で(赤字で)返済できるか?というと、スルガ銀行は顧客の資産について資料を改ざんして融資を実行したことからは、借主の自腹での返済もかなり困難と考えたほうがよいと思います。

つまり、借主としては賃料からの返済もできず、自腹で返済する資産もありません。この状態を「債務超過」といいます。

個人が債務超過になって、生活が回らなくなった場合の典型的な手段は破産です。破産とは、要するに個人のプラスの資産をすべて換金し、そのお金でできるだけ借金を返した上で、残りの負債を免除するというものです。ある意味非常にわかりやすく、公平でもあるのですが、シェアハウス以外に資産(自宅など)がある人にとっては、スルガ銀行スマートデイズの口車に乗ったがために、資産が0になる、というのはなかなか受け入れがたいところがあります。

この逆の解決が、スルガ銀行が借主に対する債権を全部放棄するというものです。この解決は借主がほぼ無償でシェアハウスという不動産を手にできるという問題があります。この事件でシェアハウス投資を行う判断をしたという投資家責任を借主に負わせるか否か?という問題以前に、無償で資産を手にできる人が出てくるのは、相当に不公平ということになります。また、実は次に説明する税金の問題もあります。

そこで中間案として出てくるのが、スルガ銀行にシェアハウスの所有権を渡すことで、借金を返したことにする解決です。これを代物弁済といいます。これは、不正を働いたスルガ銀行に不正により水増しされた価値分の損失を負わせるものであり、借主は何の責任も負わなくてよいか?との問題はあるものの、それなりに不正の実態に即した解決です。

しかし、立ちはだかるのは税金の問題です。

仮に、借主はスルガ銀行による1億円という評価を基に同額の融資を受けてシェアハウスを建てたが、実際の価値は6000万円だったとします。実際の価値が6000万円にしかならないからこそ、代物弁済という手段での返済を行うわけですから、建物の価値は6000万円である!というのが借主の主張ということになります。

そして、実際に借りた1億円との差額4000万円についてはどうなるか?というと、スルガ銀行から債務免除(債権放棄)を受けた、と考えるのが素直な構成です。ここで、「債務免除」を税法的に構成すると、

相続税法1条の4「一 贈与により財産を取得した」

にあたることになります。つまり、借主に贈与税が課税されるわけです。

仮に、4000万円の債務免除を受けたとすると、贈与税額は、

(4000万円−110万円)×55%−400万円=1679万円

となり、かなりの負担です。

では、これを避けるためにシェアハウスの価格は1億円だ!と強弁して代物弁済する、ということも考えられますが、これは代物弁済の動機とまったく矛盾しますので、国税当局が耳を貸す可能性は低いように思います。

そうすると、国が税法上の特例を作る形で救済スキームを立法化すれば別ですが、単純な代物弁済による解決はかなり難しいことになります。

このように落ち着きどころの難しい問題を生じさせたことも、スルガ銀行スマートデイズの罪と言えるかもしれません。

headlines.yahoo.co.jp

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