弁護士由井照彦のブログ

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違法と不当−行政に絡まる2つの視点?

記事のように、これらの問題を「違法なのか?」という視点でとらえる見解が散見されます。このような見解は、おそらくは安倍政権擁護という目的又は政治的意図はともかくとして、行政府(総理大臣は行政のトップ)の行為の評価の観点からは中々興味深い内容を含んでいます。

これを「政治的に」ではなく、あくまで「法的に」考えると次のようになると思います。

行政府が何かをするにあたって、最も典型的で権力的な行為は「行政処分」です。食中毒を出した飲食店に都道府県(保健所)が営業禁止処分を下したり、現在問題となっているように学校の設置を認可(処分)したり、といったようなものです。

行政処分に不服がある場合に、一般人がすぐに思いつくのは訴訟、つまり裁判所=司法権に訴え出て、処分を取り消してもらう、ということだと思います。いわゆる行政訴訟、処分取消訴訟というやつです。

問題は、その先、つまりどういう場合に、裁判所は行政府が行った処分を取り消すのか?言い換えると、どういう場合に、裁判所は取り消してよいのかということです。

これは一言で言うと

「処分が違法なとき」

ということになります。

当たり前じゃん、という声が聞こえそうですが、ここに妙味が隠されています。

つまり、

処分が「不当」であっても、「違法」でなければ、裁判所は処分を取り消してはならない

ということです。

獣医学部設置問題に引き直すと、

①K学園が設置する獣医学部

②S大学が設置する獣医学部

③Y学校が設置する獣医学部

 の3つが申請を出し、法律が定める設置基準を①②は満たし、③は満たしていないとします。また、今回設置が認められるのは1校のみとします。

ここで文科省が③に設置許可を出した場合は、法律で定める設置基準を満たしていない学校に設置を認めたのですから「違法」ということになります。

この場合は、裁判所は③に対する設置許可処分を取り消すことができます。

一方、①②はどちらも法の定める設置基準を満たしているものの、①の方がよりわが国の獣医学やバイオ技術基盤整備に資する(公益に資する)とします。

この場合に文科省が②に設置許可を出した場合、これはより大きな公益の実現の妨害になりますので、「不当」と評価されます。

しかし、「不当」であっても法定の設置基準を②も満たしている以上「違法」ではありません。

このような場合には裁判所は②への設置許可処分を取り消すことができません。

行政府が行う行政処分を、行政府ではない司法府が取り消すことができるのは違法な場合に限定される、というのは三権分立の表れと言えます。

違法ではないが不当という場合に行政府の処分を糺すためには、行政府自身が取り消すという決定をすることになります。例えば、行政府の処分の妥当性を行政府自身が点検・審査する行政不服審査では、行政処分の「適法or違法」だけでなく、「妥当or不当」の審査も可能であり、不当な行政処分を取り消すことができます。

つまり、行政府自身が行政府の行為を点検するにあたっては「違法かどうか」は1つの視点にすぎず、

「より公益に資する処分はなかったか?」

という公益の実現を目的とする行政府らしい、より重要な視点が要求されることになります。

さて、今回の森友、加計問題は、行政府の決定にあたって、行政府がどのようなプロセスでどのような事項・利益を考慮したか?が問題となっています。「首相案件」というフレーズも、「経営者が首相のお友達か否か?」という本来考慮すべきでない事項が処分決定に影響を及ぼしたのではないか?が問題にしていますので、正に「妥当or不当」の問題です。

ですので、これを総理大臣をはじめとする内閣(行政府)が国民や国会に説明するにあたっては「違法かどうか」よりも「妥当か不当か」「考慮すべきでない事項を考慮したか否か」がより本質的な問題と言えます。

ついでですが、行政府の処分の違法性・不当性を国会がどう扱うかというと、究極的には憲法上総理大臣の指名(67条)、内閣不信任決議(69条)という国会に与えられた権能を使って、総理大臣を交代させて糺す、ということになります。国会が処分を直接取り消すのではなく、行政府のトップの交代により行政府を制御するという仕組みであり、三権を分立させた上で議院内閣制を採用しているということになります。

 

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