弁護士由井照彦のブログ

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開き直りは得策か?ーふるさと納税と寄附金制度の本質

総務省ふるさと納税の返礼品を地場産品に限定し、返礼率も抑えようと要請するのに対して「要請は助言」と開き直る自治体や首長を「頼もしい」と讃える風潮がある地域もあるような気がしますが、それはともかく、開き直った先に展望があるか?をふるさと納税の本質や正当性の観点から考えるのは、今後の制度議論にとても有益だと思います。

ふるさと納税とは、地方税法37条の2所定の「寄付金税額控除」という制度の別名です。これは、

地方税法37条の2「道府県は・・・納税義務者が・・・寄附金を支出し、当該寄附金の額の合計額・・・が二千円を超える場合には、その超える金額の百分の四・・・に相当する金額・・・を当該納税義務者の・・・所得割の額から控除する・・・。

一 都道府県・・・に対する寄附金(当該納税義務者がその寄附によつて設けられた設備を専属的に利用することその他特別の利益が当該納税義務者に及ぶと認められるものを除く。)」

 という規定です。つまり、ふるさと納税とは、

ふるさと(地方)に「納税」するのではなく、

地方自治体に「寄付」を行った場合に、寄付金額を自分が居住する自治体への住民税等の税額から「控除」して(引いて)もらう

 という制度です。

ここで重要なのは、私達が自治体に払うのは「寄付」であって、「税」でないことです。

この「税ではなく寄付である」というポリシーは、上記規定自体、カッコ書きが、自治体から「特別の利益が及ぶ」場合には、寄附金控除しない=住民税等を減らさないことを定めて、

「寄付」は無償の行為(好意?)であって、対価(何らかの利益)を得るべきではない

という価値観を明確に定めていることからもわかるとおり、寄附金控除制度=ふるさと納税制度の正当性の根幹です。 

ちなみに似たような制度として、所得税法

所得税法78条「1 居住者が・・・特定寄附金を支出した場合において、第一号に掲げる金額が第二号に掲げる金額を超えるときは、その超える金額を、その者のその年分の総所得金額、退職所得金額又は山林所得金額から控除する。

2 前項に規定する特定寄附金とは・・・

一 国又は地方公共団体・・・に対する寄附金(その寄附をした者がその寄附によつて設けられた設備を専属的に利用することその他特別の利益がその寄附をした者に及ぶと認められるものを除く。)」

 という規定があり、カッコ書きまでそっくりです。そして、この所得税法上の寄付金控除の趣旨・目的については、ある裁判例が、

所得税法78条所定の寄付金控除の制度は、公益的事業に対する寄付の奨励を目的とするものである」

 

 としており、あくまで「寄付」の奨励が目的であることを明確に述べるとともに、

「これを無制限に認めると種々の弊害が生じるためその適用範囲は厳格に定められており」

として、「寄付金」の弊害に言及しています。この「弊害」については、法人税法上の寄付金についての規定(一定額以上は損金に算入しないという制度)についての裁判例が具体的に

法人税法が一定金額を超える寄附金の額の損金不算入の制度を設けているのは、法人が支出した寄附金の全額を無条件で損金の額に算入するとすれば、国の財政収入の確保を阻害するばかりではなく、寄附金の出捐による法人の負担が法人税の減収を通じて国に転嫁され、課税の公平上適当でないことから、これを是正することにある」

と説明しています。この弊害は所得税法地方税法における個人(居住者)についてもあてはまります。

 つまり、我が国の税法は、公益的な寄付を奨励しつつも、税の減収やそれに伴う税の不公平という弊害・実害に対処すべく、寄付金を税から控除することを一定範囲に限定していることになります。

 さて、この「我が国全体の税の寄付金に対する姿勢・態度」という視点で今回のふるさと納税の議論を見直すとどうなるでしょうか。

まず、地方自治体への寄付を奨励する目的とは、当該地方の収入増と地元振興ということになります。

したがって、寄付金がなされても高額な返礼品を返すようでは、収入増が限定的になりますので、ふるさと納税という寄付金制度を、弊害を甘受してまで国が奨励し、設営する意味はなくなってしまいます。つまり、高額な返礼品は、ふるさと納税制度の根幹を揺るがす可能性を含んでいると言えます。

他方、地元振興という視点からは、地元産品を返礼品にするのであれば、寄付金(ふるさと納税)が自治体を経由して地元の産業に還元されますので、返礼品とセットのふるさと納税制度の存続理由となります。逆に言えば、地元産品でない物を返礼品しても、ふるさと納税を、弊害を甘受してまで国が奨励し、設営する理由はなくなってしまいます。つまり、地元産品以外を返礼品とすることは、ふるさと納税制度の根幹を揺るがす可能性を含んでいるといえます。

そうすると、今回の総務省ないし野田総務相の「ふるさと納税は制度存続の危機にある」という言葉は、我が国全体の税制又は税法の立場からは、それなりの説得力があり、単なる脅しと考えて開き直るのは、その先の展望が無いように思われます。

headlines.yahoo.co.jp

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