弁護士由井照彦のブログ

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育休は国益に適う?−休暇制度の多面性

記事の青山アナをめぐって、「民間では考えられない」「6年も育休でその期間の社会保険負担等は育児支援として疑問」等の議論があるようです。この議論の前提にある「育休」とはそもそもなんのための制度か?を確認することはこの問題を越えて我が国の労働制度や国の発展を考える上でとても有益です。

育休というのは、「育児休業、介護休業等育児又は家族介護を行う労働者の福祉に関する法律」(育児介護休業法)に定められている制度です。そして育児休業等の目的については、

育児介護休業法1条「この法律は、育児休業及び介護休業に関する制度並びに子の看護休暇及び介護休暇に関する制度を設けるとともに、子の養育及び家族の介護を容易にするため所定労働時間等に関し事業主が講ずべき措置を定めるほか、子の養育又は家族の介護を行う労働者等に対する支援措置を講ずること等により、子の養育又は家族の介護を行う労働者等の雇用の継続及び再就職の促進を図り、もってこれらの者の職業生活と家庭生活との両立に寄与することを通じて、これらの者の福祉の増進を図り、あわせて経済及び社会の発展に資することを目的とする。」

としています。

この規定からは育児・介護休業の目的は

・養育者・介護者の雇用継続、再就職

→養育者・介護者の職業生活と家庭生活の両立

→養育者・介護者の福祉の増進

+経済及び社会の発展に資すること

 です。

つまり、育児休業等は養育者、介護者の福祉だけでなく、経済及び社会の発展に資することという国益、公益目的を有していることがわかります。

この点は実は11月に説明した「子を育てるのは親の責任」という話と少し絡みます。

子を育てるのは親の責任、すなわち国(や社会全体)は子を育てる義務や責任は無く、子育て責任者である親を補助・援助するだけというのが我が国の法制度です(この是非はここでは議論しません)。

他方、介護については下記の規定が参考になります。

民法730条「直系血族及び同居の親族は、互いに扶け合わなければならない。」

民法877条1項「直系血族及び兄弟姉妹は、互いに扶養をする義務がある。」

民法752条「夫婦は同居し、互いに協力し扶助しなければならない。」

 これらの規定からは、誰かが病気に倒れたりする等により、生活に困った場合には、配偶者及び親族が面倒を見るのが我が国の仕組みということになります。もちろん、上記規定は主として経済的側面を定めた規定ではありますが、要介護状態となり生活できない人を施設に入れてその費用を親族が扶助するという話になると、じゃあ自宅介護をするか?という話につながるわけです。

つまり、我が国では育児にしろ介護にしろ責任者は親や配偶者や子といった親族(=個人)であって、国や社会全体はその責任を負いません。子供、被介護者、養育者、介護者に補助ないし援助するのみです(この是非は今回は論じません)。

他方で、国というのは国民が働き、稼ぐことで経済を繁栄させ、そこから税金を徴収して国家運営を行います。反対に税金で運営される国の様々な活動により国民が利益を受ける、という関係にあります。

そうすると、国民が働き稼ぐことは国家にとっても国民・社会全体にとっても死活的に重要です。このことは憲法にも如実に現れており、

憲法27条1項「すべて国民は、勤労の権利を有し、義務を負ふ。」

とされています。

さて、自分の子供を育てたり、親族を介護したりといったことは、少なくともそれそのものからは「稼ぎ」は生まれません。むしろ、育児や介護中に労働して稼ぐ機会を失っているといえます。

そうすると、育児・介護の責任をその親族という個人に負わせる一方、それらの人を含む国民が働き稼ぐことが国や社会全体の利益になる、というのはそのままの状態では両立しません。したがって、かなり強力な調整のための制度が必要となります。

その制度の1つが育児休業・介護休業です。つまり、

育児や介護の責任及び主たる負担は親・配偶者・子に負わせつつ、

社会保険料等を免除したり、雇用の確保をしたりして、育児者・介護者が再び働き稼いで国家に納税するよう誘導し、

それにかかる負担の一部を国(社会全体)と介護者等を雇用する企業に分担させる

という制度を構築している、ということになります。

これが育児介護休業法及び育児休業の「公益性」です。

国家の人口を「維持」するために必要な合計特殊出生率(1人の女性が一生の内に出産する子どもの平均数)は2.07程度とされていますが、現在の我が国の合計特殊出生率は1.44程度です。人口減、少子高齢化がかなりのスピードで進んでいるため、労働力不足もどんどん深刻となります。つまり、働き稼いで納税する人がとどんどん減っているのであり、国家運営のため育児者・介護者を復職させて再度稼いで納税させる必要性が今後益々高まります。

 そのような状況を頭に置いた上で、

親・子・配偶者等の親族・個人に育児・介護の責任を負わせつつ、

国家が援助・補助するという仕組みをとり、

しかもより多くの国民が働き稼いで納税しなければならない

とすれば、具体的な制度をどのようにすべきか?

という視点で、育児介護休業の公益性に想いを致して、記事のような問題を考えることが有益で重要なのではないかと思います。

 

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