戸籍は大事−蓮舫氏の二重戸籍問題から考える
16/9/15の記事で説明した通り、我が国の公職選挙法は国会議員の被選挙権について
公選法10条「日本国民は・・・被選挙権を有する」
と規定し、
これは外交官になる要件を定める外務公務員法が
外務公務員法7条「・・・国籍を有しない者又は外国の国籍を有する者は、外務公務員となることができない。」
と定めるのと比較すれば明らかな通り、二重国籍者の被選挙権を許容しています。
すなわち、「仮に」蓮舫氏が国会議員になるに際し、二重国籍であったとしても法的には問題ありません。
そこで蓮舫氏を攻撃するために持ち出す論理は「政治責任」ということになります。
「政治責任」とは色んな意味があり、逆に言えばしっかりとした内容を持つ言葉ではありません。
しかし、「国会議員になろうとするのであれば、自己が我が国以外に何らかのつながり・コミットメントを有している場合には、少なくともそれを表明した上で有権者の判断(選挙)を仰ぐべきだ」という主張には一定の説得力があり、少なくともあり得る見解です。
しかし、仮に上記見解を支持したとして、蓮舫氏に戸籍の公開を求めるのが妥当か?については異論があり得ます。
それは我が国の戸籍というものの特殊性への配慮です。
我が国では、
憲法13条「すべて国民は、個人として尊重される。生命、自由及び幸福追求に対する国民の権利については、公共の福祉に反しない限り、立法その他の国政の上で、最大の尊重を必要とする。」
との規定を根拠にいわゆる「プライバシー権」が認められています。現在声高に言われる「個人情報保護」もこの流れです。
我が国の戸籍は国民の出生から死亡までの「血の繋がり」「婚姻」「養子」などの身分関係が全て記載された書類です。
また、戸籍制度は明治5年以来135年以上続いており、人の出自に関する情報が非常に長期間に渡って蓄積されています。
更に基本的には「家」を基本として編成されているため、今回で言えば、蓮舫氏の戸籍には、蓮舫氏の配偶者と子どもについても身分関係・血筋等が記載されていることになります。
また、ある戸籍を見ることができれば、「本籍」等を頼りに先祖を遡ったり、他の親戚を辿ったりすることが出来ます。もちろん、これは弁護士等が裁判等に必要な限りでしか許されていませんが、残念ながら弁護士を買収する等して違法に戸籍を入手する事例が散見されます。
すなわち、戸籍というのはプライバシーの塊のような書面である上、本人以外についての記載があり、しかも(違法な手段を使えば)先祖・親戚を辿ることが可能となるものです。
このような特殊な書類を特定の目的のために特定の個人・機関に提出するのはともかく、「公開する」「公開を要求する」ことには非常に抑制的でなければなりません。
前述の通り、二重国籍者が国会議員になることは公選法上許容されています。これは国権の最高機関である国会がそのように判断している、ということです。
また、戸籍制度は我が国の伝統と言ってもいいほどに長期間維持・運用されている法制度です。
そうであるにもかかわらず、「政治責任」という曖昧な言葉の下、戸籍の公開を求める、ということが果たして我が国の法制度・政治制度と整合するかについては、慎重な検討が必要と思われます。