弁護士由井照彦のブログ

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最高裁は国会任せ?−合憲判決と国会の関係

前回NHKとの契約強制について投稿したところ、「NHKも結局民法と同様の原理で番組を作っているのでは?」というご指摘をいただきました。この点については、一般の方が抱く「合憲判決」「違憲判決」のイメージが実際のそれとは異なっているのかもしれないと思いますので、今回の判決文を使いながら説明したいと思います。

今回の判決ではNHKとの契約強制について定める放送法64条1項が憲法に適合するか否か=合憲か違憲かが判断されていますが、最高裁の問題の立て方に注意が必要です。判決文に上記問題について

放送法が…受信料により確保するものとしていることが憲法上許容されるかという問題であり…」

と書いてあるように、最高裁放送法64条1項が憲法上「許容されるか」という点について判断しているのです。

少しわかりにくいかもしれませんが、これは中学校で習う「国会が法律を作り、行政がそれを執行し、司法が適用をめぐる紛争を解決する」という三権分立及び裁判所と国会の能力に関連する話です。

まず、我が国では国民による選挙により国会議員が選ばれ、その議員が国会で審議して法律を作ります。国民の選挙で選ばれた国会議員が、国会で多数決で法律を定めるのですから法律というのはとても「民主的」なわけです。

他方で、裁判所の構成員である裁判官は選挙で選ばれたわけではなく、裁判官が選挙で選ばれた国会議員が国会で多数決で定めた法律を「憲法に違反する」としてその効力を否定するのはとても「非民主的」ということになります。

したがって、裁判所は国会で定められた民主的な法律については軽々に「違憲だ」と一刀両断すべきではなく、「基本的人権を守る」ためにやむを得ない場合に限り、法律が憲法に反するとの判断をすべきだ、と考えられています。

次に、国会と裁判所の能力の問題があります。前回説明したとおり、放送法が放送を規制する目的は憲法上の基本的人権である表現の自由の実質的な確保を通じた民主主義の健全な発展ですので、もちろん憲法に反するわけではありません。

しかし、憲法上の権利の確保が目的であっても、今回の判決文にあるとおり、

「具体的にいかなる制度を構築するのが適切であるかについて は,憲法上一義的に定まるものではなく」

というのは当然です。同じ目的を達成するにもその手段=規制方法は多種多様に考えられるぞ、ということです。

そして、たくさんの選択肢からよりよいものを選ぶ能力は国会と裁判所では比較にならないほど国会が優れています。ちょっと考えるだけでも、裁判所は当事者が提出した証拠しか判断材料がありませんが、国会議員は各々政務調査を行い資料を収集していますし、内閣を通じて官公庁が集めた資料も利用できます。更に与野党の議員による「討論」や内閣等行政への「質問」を通じてそれぞれの選択肢について意見を交換し、更によい選択肢を生み出すことすらできます。

したがって、今回の判決が言うとおり、

憲法21条の趣旨を具体化する前記の放 送法の目的を実現するのにふさわしい制度を,国会において検討して定めることと なり,そこには,その意味での立法裁量が認められてしかるべきであるといえる。 」

ということになります。

つまり、ⅰ)民主的な法律を裁判所が違憲とするのは限定的であるべきという考え方とⅱ)国会の方が選択の能力があるという考え方からは、

国会が選択できる規制には幅=立法裁量がある

と考えられることになります。

裁判所はこの幅=立法裁量を超える規制がなされた場合に当該法律を「憲法違反」として効力を否定する役割を担うわけです。

これは言い換えると裁判所の個々の法律(規制)に対する判断には、

憲法上要請されている

憲法で否定されている

憲法上要請されていないけど、否定はされていない

 という3つのカテゴリーがあって、①だけでなく③も合憲であるとされているということです。

そして、③については立法裁量の範囲内の事柄は司法ではなく国会で議論し、必要ならばこれまた立法裁量の範囲内で改正等せよ、と裁判所は言っていることになります。

本件でも表現の自由の確保のため、異なる原理で運営される複数の放送を確保するという手段は「立法裁量の範囲内」と判断されたのですから、「実際には異なる原理になっていないのではないか?」「他にもっとよい規制方法があるのではないか?」といったような話は裁判所ではなく、国会で行うということになります。したがって、強制徴収がおかしいと考える人は放送法64条の改正を国会議員に働きかけ、働きかけを受け入れた人に投票する、ということになります。

gendai.ismedia.jp

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