気づかぬ内に消費者金融?−銀行カードローンの仕組み
記事のような銀行カードローンの問題を考えるにあたっては、おカネの貸し借りに関する基本的な法的仕組みを理解しておくことが非常に有益です。
まず、記事で言う「総量規制」とは貸金業法に定めがあり、
貸金業法13条の2「①貸金業者は・・・個人過剰貸付契約その他顧客等の返済能力を超える貸付けの契約と認められるときは、当該貸付けの契約を締結してはならない。
②「個人過剰貸付契約」とは・・・基準額(その年間の給与及びこれに類する定期的な収入の金額として内閣府令で定めるものを合算した額に三分の一を乗じて得た額をいう・・・)を超えることとなるもの・・・をいう。」
つまり、貸金業者は債務者の借入額が年収の3分の1以上になる場合には、貸付けを行ってはならないと定めているわけです。
消費者が過度な借入れを防ぐための規定であり、消費者保護が目的と言えます。
さて、この総量規制は貸金業法には上記のように定めがありますが、銀行法にはありません。
詳しい説明は省きますが、銀行は貸金業者(消費者金融や信販会社)ではないので、貸金業法の規制=総量規制を受けません。つまり、個人の借入額がその年収の3分の1を超えることになっても貸し付けることができます。
このことを「抜け穴」と捉えるか、「貸金業者と銀行の社会的信用に基づく常識的な区別」と捉えるかは諸論あると思います。
この先の具体的な議論のためには、おカネの貸し借りについての基本的な仕組み、民法の規定を知る必要があります。
銀行ローンの登場人物は債務者と銀行だけではありません。
例えば、三菱東京UFJ銀行のカードローンである「バンクイック」の説明書(http://www.bk.mufg.jp/kariru/card/banquic/pdf/banq_setsumei.pdf)をみると、
「※保証会社(アコム㈱)の保証をご利用いただきますので、保証人は必要ありません」
と書いてあります。
つまり、銀行ローンは、利用者が消費者金融会社に保証人になってもらって、銀行からお金を借りる仕組みです。
保証人とは何か?については民法に規定があり、
民法446条1項「保証人は、主たる債務者がその債務を履行しないときに、その履行をする責任を負う。」
とされています。
銀行カードローンに引き直せば、利用者(債務者)からの返済が滞った場合には、銀行は保証人である消費者金融会社から返済を受けることになります。この金額が利用者の年収の3分の1を超えることも当然あり得ます。
そして、
民法459条1項「保証人が・・・主たる債務者に代わって弁済をし・・・たときは、その保証人は、主たる債務者に対して求償権を有する。」
とされています。
銀行カードローンで言えば、銀行に対し返済を行った消費者金融会社は、肩代わりした返済金を債務者に請求できることになります。
この時点で、銀行は既に返済を受けていますから、債務者(利用者)や消費者金融会社との間に法的関係はありません。
言い換えれば、
「消費者金融会社が借入金額について債務者に返済を請求している」
という関係だけが残っています。
そうすると消費者金融会社が自ら貸し付ける際には利用者(債務者)の年収の3分の1を超える貸付けはできませんでした。
それが、
銀行カードローン
→消費者金融が保証人
→(利用者による返済滞り)
→消費者金融が銀行に返済
→消費者金融が利用者に請求
というルートを辿ることによって、結局のところ消費者金融が年収の3分の1以上の額を利用者に貸し付けたのと同じ状況が出来上がってしまうのです。
このように、銀行カードローンを巡る問題は、貸金業法と銀行法との間の総量規制規定の存否だけを見ても理解ができません。
お金の貸し借りは色々と仕組みが多く理解しにくく、議論が抽象的になりがちです。
しかし、上記のように、民法等のおカネの貸し借りの基本的な仕組みを知っておくと、かなり具体的で有益な議論ができます。