弁護士由井照彦のブログ

法律の視点からの社会・事件やリーガルリサーチについて

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身代わり犯人を頼むのも引き受けるのもマイナスしかない

犯人の知人や家族が本人の身代わりに自首する、という事件は交通事故を中心にしばしば見られます。その際に適用されるのが、記事にもある「犯人隠避罪」という罪です。 
これは、
刑法103条「罰金以上の刑に当たる罪を犯した者又は拘禁中に逃走した者を蔵匿し、又は隠避させた者は、三年以下の懲役又は三十万円以下の罰金に処する。」
とされているものです。
「蔵匿」とは、警察等から犯罪の嫌疑をかけられている人(いわゆる「容疑者」)に場所(隠れ家)を提供してかくまうことであり、「隠避」とは、それ以外の方法で警察等による容疑者の発見・逮捕等を難しくすることです。
つまり、容疑者を警察等が発見することを難しくする行為をすれば、犯人隠避罪が成立します。 
ここで重要なのは、この罪は「身代わりになった人」に成立する罪だということです。
最初に身代わり犯人の自首は交通事故に多いと書きましたが、このことは、身代わり犯人の多くが、ほとんどの場合交通切符を切られるか、悪くて罰金しか科されないことを前提に、身代わりを引き受けていることを示していると思われます。
だからこそ、真犯人が身代わりになる人にお金を払って、身代わりになってもらう、という事態が生じるのです。
しかし、それがバレれば身代わりになった人に犯人隠避罪が成立し、上記の規定から分かる通り、同罪は3年以下の懲役刑を含むそれなりに重い刑罰が科される罪です。したがって、お金をもらって身代わりになるというのは、基本的にはリスクが高く、割に合わない行為です。 
他方、刑法103条の規定からは、「自分を自分でかくまう」ことは出来ない(単に逃げてるだけ)以上、容疑者自身には、同罪は成立しないのが原則です。
しかし、他の人に身代わりなるよう頼んで自首させることについて判例は、「防御権の乱用である」という理由で、身代わりの人の「共犯」という形で、犯人隠避罪が成立するとしています(学説上は異論が強いのですが)。
そうすると、結局、身代わりになった人は犯人隠避罪で処罰され、犯人本人は本来の容疑だった犯罪+犯人隠避罪(併合罪といって刑が重くなります)で処罰されることになり、全体として単に刑を受ける人が増えて、かつ、重くなる、というマイナスしか無い事態を招くことになります。

リーガルリサーチについて経歴の自白

リーガルリサーチについて、ちまちまと書いていこうと思っています。


ブログ主である由井は弁護士になる前、第一法規株式会社に勤めていたことがあり、判例体系の編集やそのWeb商品である「D1-Law.com」編集に携わっていました(但し、下っ端)。
 
同社退職後にロースクールに行き、司法試験を受験し、弁護士になるという経過を辿ったことから、検索システムとリーガルリサーチの基礎的手法について考えることがそれなりにあるため、ブログの形で思いつくままに書いてくことにしました。
 
本ブログはまとまった思考を書くのではなく、試論や検証前の仮説を含み、書く順番についても全く秩序立てていません。
 
また、検索システムについては中立的に考えているつもりですが、上記のような経歴によるバイアスがあり得ることは自覚しています

「法律は条文文言が決定的に大事」−蓮舫氏二重国籍問題を題材に

蓮舫氏の二重国籍問題についての議論の前提としての法律の規定について、国籍法と別の観点から説明します。ここで説明したいのは蓮舫氏の二重国籍の問題性ではなく、「法律は条文文言が決定的に大事」という法解釈の基本的スタンスについてです。
蓮舫氏が台湾籍を有していたことで「日本国と利益が相反するからけしからん」のような言説が一部にあります。この点の法律はどうなっているかというと、まず、蓮舫氏は国会議員ですのでその資格が問題となります。これについては、公職選挙法に規定があり、

公選法10条「日本国民は、(略)、それぞれ当該議員又は長の被選挙権を有する。」

とされています。前回も書いた国籍法によれば、

国籍法2条「子は、次の場合には、日本国民とする。一 出生の時に父又は母が日本国民であるとき。(略)」

ということになっていますので、蓮舫氏には日本国籍があり、したがって、被選挙権=国会議員になる資格があります。
上記の公選法の規定は、少なくとも公選法上、すなわち国会議員になる資格(=被選挙権)との関係では、外国との利益相反の有無を、日本国籍を保有するか否かで判断するという立法府=国会の判断が示されています。
このことは、外務公務員(いわゆる外交官)になる資格についての規定と比較すると明らかです。すなわち、

外務公務員法7条「(略)国籍を有しない者又は外国の国籍を有する者は、外務公務員となることができない。」

と規定されており、外交官における外国との利益相反の有無を、日本国籍の保有に加えて「外国籍を有しないこと」つまり、二重国籍者でないか否かで判断する、という立法府=国会の判断が示されています。(ちなみに、外務公務員法の規定は、日本国籍を保有する二重国籍者の資格制限を定めるほとんど唯一の規定です。

立法府=国会は法律を変えることが出来る以上、公選法と外務公務員法の文言を同じにすることは当然にできます。それをしていない以上、少なくとも立法府=国会は国会議員になる資格=被選挙権との関係では二重国籍を問題にしていない、との解釈が基本になります(いわば「条文文言そのまま」の解釈)。

もちろん、様々な実質的な考慮から上記の基本とは異なる解釈が(多くは裁判所によって)なされることもあります。ただ、その際には、「条文文言そのまま」の解釈とは異なる解釈をする理由がシビアに求められるため、判決等でかなりのボリュームの理由付けが述べられます。
上記のような意味で、「法律は条文文言が決定的に大事」ということになります。我々弁護士等法律に携わる人が「六法」なる法文集をいつもペラペラめくっているのもそこに理由があります。

国籍を選択する・離脱するとはどういうことか。

政治的立場と絡めて色々と議論がありますが、前提となる法律の規定を見ておくと、まず、
国籍法2条「子は、次の場合には、日本国民とする。一 出生の時に父又は母が日本国民であるとき。(略)」
であり、親が日本国民であれば、子は日本国籍を取得します。

その上で、

国籍法第14条「①外国の国籍を有する日本国民は、外国及び日本の国籍を有することとなつた時が二十歳に達する以前であるときは二十二歳に達するまでに、その時が二十歳に達した後であるときはその時から二年以内に、いずれかの国籍を選択しなければならない。②日本の国籍の選択は、外国の国籍を離脱することによるほかは、戸籍法の定めるところにより、日本の国籍を選択し、かつ、外国の国籍を放棄する旨の宣言(以下「選択の宣言」という。)をすることによつてする。」

と規定しています。
つまり、日本国籍選択の方法としてⅰ)外国の国籍の離脱によること、ⅱ)選択の宣言によること、の2通りの方法を認めていることになります。

ここで、ⅰ)外国国籍の離脱による場合は、当該外国の国籍離脱証明書の提出が必要であり、蓮舫氏は結果的に台湾籍が残っていたのですから、この方法はとっていない可能性が高いと思われます。

したがって、ⅱ)選択の宣言によって日本国籍を選択した可能性が高いと思われます。
ここにいう「日本の国籍を選択し、かつ、外国の国籍を放棄する旨の宣言」については、

戸籍法104条の2「日本の国籍の選択の宣言は、その宣言をしようとする者が、その旨を届け出ることによつて、これをしなければならない。」

とされており、あくまでも我が国内での手続き=届出が要求されるているにとどまり、外国において国籍を放棄する手続きの履行は国籍選択の宣言とは別の手続き・問題です(だからこそ、ⅰ)の外国国籍離脱とは別の方法として定められている)。

そして、外国における国籍放棄については、

国籍法16条「①選択の宣言をした日本国民は、外国の国籍の離脱に努めなければならない。」

と努力規定を定めており、蓮舫氏はこの努力義務との関係で問題が生じていることになります。

この努力義務を蓮舫氏がどの程度果たしていたか(果たしていなかったか)について、具体的な事実の流れや野党党首を目指す政治家という立場との関係等色々と議論があり得るものと思われます。

 

http:// http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20160913-00000043-jij-pol

 

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