弁護士由井照彦のブログ

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賄賂は申込んだだけで処罰される

鴻池元防災相が「無礼者!」と言って投げ返したのは、事実とすれば中々のパフォーマンスですが、それはともかく、この問題についての森友学園理事長の言い訳は、法的にはかなり興味深いものです。

政治資金規正法の枠外で政治家にお金を渡す場合に問題となるのは賄賂罪です。渡す方は贈賄罪、もらう方は収賄罪に問われます。
今回学園理事長は渡す方なので、贈賄罪が問題となります。
贈賄罪とは、

刑法第198条「第197条から第197条の4までに規定する賄賂を供与し、又はその申込み若しくは約束をした者は、三年以下の懲役又は二百五十万円以下の罰金に処する。」

と定められています。

収賄罪は種類が多いため、「197条から・・・」となっていますが、そこは度外視すると、まず問題になるのは「賄賂」とは何か?と言うことです。

賄賂とは、公務員の職務行為に対する対価としての不正な「報酬」をいいます。
判例は「報酬」について具体化して

「賄賂とは財物のみに限らず、又有形たると無形たるとを問わず、苟も人の需要もしくは欲望を充たすに足りるべき一切の利益を包含する」

としています。

「賄賂」というと現金や株式をイメージする人が多いのですが、上記の判例からは金融の利益はもちろん、芸者の花代等饗応接待、就職のあっせん約束、更には異性間の情交も「賄賂」にあたることになります。

当然、商品券は賄賂にあたります。
したがって、学園理事長の「事実無根、金銭ではなく商品券だ」という言い訳は、贈賄罪を否定することにはなりません。

次に、ここが一番誤解されがちですが、今回理事長は商品券入りの包を鴻池氏に渡したが「投げ返され」ています。すなわち、鴻池氏は賄賂を受け取らず、他方、理事長は賄賂を渡すことが出来ませんでした。

しかし、上記の刑法198条の条文文言には「賄賂の申し込み」と書いてあります。つまり、「受け取って下さい」と言ったり、包を「渡そうとした」だけで贈賄罪は成立します。
したがって、理事長の言い訳は贈賄罪の成立を否定することにはなりません。

もちろん、商品券より金銭を渡す方が悪質だ、申込みだけで断られたのなら、それほど非難すべきでない、として量刑を軽くする事情にはなるかもしれません。
しかし、贈賄罪自体は成立する以上、検察等が理事長を捜査すること自体には支障が無いと言えます。

そうすると理事長にとって検察等の捜査を避けるための主張としては、鴻池氏への商品券供与申し込みは「親族がお世話になったことへのお礼」であり、「公務員の職務行為に対する不正な報酬」の申し込みではなかった、ということしか残らないことになります。
したがって、今後はその点の主張を盛んに発信してくる可能性が高いと思われます。

headlines.yahoo.co.jp

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