弁護士由井照彦のブログ

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共謀罪について冷静で有益な議論をするために

共謀罪についての議論が喧しいのですが、「喫茶店で話すだけで捕まるvs条約上制定義務がある」というような荒っぽい対立軸が強調されています。

共謀罪の是非を考えるためには、

「現行法上『共謀』はどの範囲で罰せられるか?」を押さえて、
「現状に加えて新たにどのような範囲を罰するのか?」
を考えないと、現実的な思考ができません。
というのも、「共謀」は現行法でもそれなりに罰せられているからです。

H28/11/1の記事にも書いた通り、「犯罪の実行行為を分担をしていないけれども、犯罪の実現に重要な役割を果たした者」は、「『共謀』共同正犯」として罰せられます。
この「共謀」については、
「(暴力団組長等)上位者が下位者に命令する」、
「対等な者同士で犯行計画を練る」
等は語感から想像しやすいと思います。

しかし、現実には上記のような典型的なパターンだけではなく、
AとBが犯行を計画して、BがAには知らせず実行をCに命令した場合にAも共謀共同正犯になる(順次共謀)、
DがYを殴っている現場に、Fが出食わし、その場でDとYから金を強奪しようという話になり、2人でYを殴って金を強奪した場合にDとFが共謀共同正犯になる(現場共謀)
等のパターンも共謀共同正犯として罰せられます。

更に、「黙示の共謀」も認められています。黙示の共謀とは、例えば、
暴力団組長は一切指示も示唆もしていないが、下位の組員が組長の移動に拳銃を所持してボディーガードしていた」という場合に、「組長の立場を考えれば、実質的に組長が組員に拳銃を所持させていたと評価できる」として組長と組員を共謀共同正犯として罰する、という考え方です。
ここでは、「話す」という要素すら不要とされています。

また、正犯とまでは評価できなくても、「他人をそそのかして犯罪実行の決意を生じさせて、その決意に基いて犯罪を実行させた」という関係にあれば「教唆犯」として正犯と同じ刑が科されます(刑法61条1項)(教唆犯を教唆すること(教唆犯の教唆犯を教唆すること・・・)も同じく教唆犯になります(同条2項))。
「そそのかす」とは通常「話す」ことで行われるのであり、それは「喫茶店で話す」という形態を含むことになります

更に、「そそのかす」(=犯意を発生させた)とまで言えなくても、「既に犯人に生じていた犯意を強化し、犯罪遂行を容易にした」と言えれば、「幇助犯」として、罰せられます(刑は軽減されます、刑法62条)。
古い判例には、「男はやるときはやらねばならぬ」などと激励して殺人の決意を強固にした者が幇助犯とされたものがあります。
当然、上記セリフが喫茶店で言われても幇助犯となり得る訳です。

以上のように、現行法でも一般用語としての「共謀」はそれなりに広い範囲で罰せられています。
共謀罪を創設する、ということは上記を超えた更に広い範囲で「共謀」を罰することを意味します。
この点、「もともと結構広い範囲で罰せられるから、多少拡張されても問題ない」と考えるか、「更に広範囲に罰せられると市民生活が圧迫される」と考えるかは諸論あると思います。

しかし、現状と共謀罪制定後を比較しなければ、共謀罪が実際に私たちに暮らしにどのように関わるかがわからず、冷静で有益な議論ができません。そのために、現行法を知るというのは1つの有力な道具となると考えられます。

headlines.yahoo.co.jp

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